緑の調律日誌

種をまく事

2010/09/24

植物の「種」を一度も目にした事がない人はおそらくいないし、ほとんどの方が種をまいて植物を育てる体験をしたことがあるかと思います。

小学校のころに植物の種をまいた時は、芽が出ると誰しも大なり小なり感動を覚えるものです。

そしてそのトキメキを今も忘れぬまま、いや、更に深めて植物園で育苗を行っています。

昨年から種をまき始め、今ポットの形になっているものは記録しているだけで7815ポットでした。

管理している私の技術も、育てている数も植物園としては小規模ですが、今後も進歩させていきます。

 

ある植物の先生が言ったこと、

「野生の植物が種を落として、それが芽生えて育つ確立なんて何万分の1も無い。きちんとした管理で種をまけばかなりの確立で芽を出させ、育てることが出来る」

なるほど。タンポポもコマクサも、ひとつの花からは相当な数の種が出来ます。しかしそれが「芽生え」、「育ち」、「花を咲かせる」には相当な淘汰を受けることになる。

例えばこの3段階がそれぞれ1/10の確立で次のステップへ行くとしても、1/10×1/10×1/10で1/1000、種1000個あっても一つ咲くかどうか。実際はもっと条件は厳しいでしょう。

 

自身で種を育てると色々なことがわかります。

例えばニッコウキスゲは4月から9月までで、これくらい育つのだなとか、

フシグロセンノウは一年でしっかり花が咲くのだな、とか。

技術書や人から聞いたものであっても、自分の目で実践すると確実に理解でき、野生の植物を見る視点も多角的になってきます。

育苗施設は今のところ一般の方へは非公開です。

しかし、栽培の手順などを踏まえ、植物の成長過程、それらの野生での姿、そういったものを解説したガイドツアーなどもいずれ整えていきたいとは考えています。

育てた苗を種類とタイミングをみて植物園内に植えたりします。

写真では園内のロックガーデンの滝の横に植えているところですが、こういう植栽をする場合、大きすぎる、小さすぎる苗ではうまく小さな隙間に収まらず、自社で育苗していると適切な大きさのものを選択出来るという利点があります。

植えたもの全てが育つとは限らないものの、根付いたものは確実に岩の奥まで根を伸ばすでしょう。

・・・それにしても、手をかけた植物たちが園内とはいえ、朝早く来て水をやり、就業後も気づいたものからポットにわけて、育てていたものが手を離れるのは・・・「貴様に娘はやらん!」というお父さんの気持ちもわかる気がします (私は25歳独身ですが

 

野に咲く花の種が花を咲かせる確立はゼロに近い数。

連綿と続く生命の確率論、それをいかに1に近づけるか。

確かな答えは出ないものの、答えを目指して探究心は続きます。